けざわメモ

独自研究を書きます

[[ゴースト (競走馬)]]をWikipediaに復帰させる方法 ~「特筆性」入門編~

Twitterの一部界隈を騒がせた[[ゴースト (競走馬)]]というWikipedia記事ですが、削除依頼を経て正式に削除されてしまいました。復帰依頼も出ていますが、復帰反対の意見のほうが優勢な状況です。ファンの皆さまからすれば残念なことだと思います。私も[[カレンブーケドール]]が好きなのでもし削除されようものなら悲しいです :(

ですが諦める必要はありません。ゴーストくんの削除理由は「特筆性」がないことです。すなわち、「特筆性」を備えていることさえ示せば復帰が可能なのです。

ということで本稿ではゴーストくんの記事復帰に向けたヒントを提示しつつ、皆さまにWikipediaにおける「特筆性」の理解を深めていただけたらと思っています。

 

1 特筆性とは

ウィキペディアには「こういう記事は作っていいよ」という基準があります。そう、ウィキペディアンの間で「特筆性」と呼ばれているものです。正式には[[Wikipedia:独立記事作成の目安]]という名称です。

無尽蔵にどんな情報でも受け入れてしまうと、低質な記事や信頼できない記事、低価値なリンク集のようなものが濫造されてしまいますから、どんな記事なら作成が許されるか、どこかでひとつ線引きをしなければならないのは理解いただけると思います。たとえば1年もしないうちに潰れるような飲食店やベンチャー企業、高校の文化祭で結成されたバンドなんかを立項できてしまったらキリがないですよね? 善意の寄付によって賄われている貴重な運営費をそんなものために浪費できるでしょうか? そういうことです。

そしてこの「特筆性」という呼び名は誤解を招きやすいものでして、「人気」や「有名さ」といった概念とは一切関係がありません。ゴーストくんの件でも「アイドルホースオーディション2位に特筆性がないわけないだろ!」といった趣旨の意見が散見されましたが、これも特筆性をそれらの意味に誤解したがゆえの反応だと思われます*1

孫氏も「敵を知り、己を知れば、百戦してあやうからず」と言っています。ということで、まずはWikipediaにおける「特筆性」の中身を見ていきましょう。

 

Wikipediaにおける「特筆性」は「対象と無関係信頼できる情報源から有意な言及があった場合、その話題はウィキペディアの独立記事として作成、収録するだけの価値があると推定されます([[Wikipedia:独立記事作成の目安]]より引用) ということを意味します。

はい、意味がわかりませんね。そう思われた方も多いと思います。私もそう思います。ということで、太線部分の具体的な意味をそれぞれ見ていきましょう。

 

1.1「対象と無関係」

これはわかりやすいですね。そのまま対象とは無関係な言及である必要があります。つまりゴーストくんで言えば橋口調教師によるコラムだったりブログだったりは特筆性の証明にはならないということです。対象と関係のある言及を許すと、たとえば無名企業の宣伝的なWikipedia立項を許してしまうことになってしまいます。

1.2「信頼できる情報源」

これもそんなに難しい話ではないのですが、ガイドラインでは長々と書いてあって頭が痛くなります。詳しく知りたい方は[[Wikipedia:信頼できる情報源]]を読んでください。

ものすごく簡単に言えば「専門家が公表した二次資料」です。二次資料とはその物の関係者による資料(一次資料)を要約・分析したもので、上記の1.1に当たらない専門家の資料ならこれに当てはまることが多いです。つまり、誰なのかもよくわからない素人のブログや匿名掲示板の書き込みはNGということです。これも常識で考えれば納得いただけると思います。

ちなみに競馬関係で言えば、優駿をはじめとした競馬雑誌やスポーツ新聞が「信頼できる情報源」にあたります。とくに優駿Wikipediaの競馬分野においては良質な資料として高い信頼を得ており、優駿内で有意な言及があるか否かは競走馬の特筆性における重要な判断材料になっているように感じます。

1.3「有意な言及」

ゴーストくんの場合これを満たせるかどうかが記事復帰における鬼門です。ある記事においてその事柄が主題であれば「有意な言及」であるとされます。つまり、ゴーストくんが主役の記事があるかどうかが問われているのです。なおnetkeibaやJBISサーチのようなデータベースは「有意な言及」たり得ません。

じゃあゴーストくんの障害移籍や中央登録抹消を報じた報道があるじゃん!と思った方、鋭いです。実はそれは別のルールに抵触するため特筆性を満たす理由になりません*2

1.31「ウィキペディアは新聞ではありません」

Wikipediaには[[Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか#ウィキペディアは新聞ではありません]]というルールがあります。簡単に言えば、日々繰り返される報道はWikipediaにおける特筆性の証明にはならないということです。たとえばニュースがあるからってよくある自動車接触事故とか一般民家の火事をいちいち立項されては困るわけです。

競馬分野においては次走報や移籍、登録抹消の報道は一介の条件馬でも報じられるような性質のものです。すなわち、障害移籍や中央登録抹消を報じた報道は「有意な言及」たり得ません。単にゴーストくんに関する事実を述べただけの記事ではなく、筆者によるゴーストくんへの分析(競走馬としての実力、人気etc……)があってはじめて「有意な言及」たり得ます

1.4「推定される」

今回はあまり関係ありません。1.1から1.3をすべて満たしていても特筆性が認められない場合がありますという一般論の話です。

1.5「Wikipedia:競走馬の特筆性判断の基準と独立記事作成についてのガイドライン

Twitterや某サイトでも[[Wikipedia:競走馬の特筆性判断の基準と独立記事作成についてのガイドライン]]が触れられていましたね。ざっくりまとめれば、①重賞勝ち馬②顕著な繁殖実績のある馬*3③[[ハルウララ]]のような顕著な特筆事項のある馬、以外はだいたい削除されるよね、という競馬分野における経験則のまとめです。将来的にはルールにしたいよねと言いつつも、現時点では単なる草案であり一切の拘束力を持ちませんが、大抵の競走馬記事は①~③のいずれかを満たします。つまり競走馬記事を作成する場合、当ガイドラインに当てはまるか否かが非常に重要になります。

 

2 ゴーストくんの場合

ここまで読んでくださった皆さま、Wikipediaの長ったらしい規則の説明にお付き合いいただきまして誠にありがとうございます。こんなの読まされたら辟易としますよね

つまりゴーストくんの記事を存続させたいのであれば、「ゴーストくんに無関係な信頼できる情報源による有意な言及」があればいいですし、①重賞勝ち馬、②顕著な繁殖実績のある馬、③ハルウララのような顕著な特筆事項のある馬のいずれかに該当すればいいわけです。

 

まず①については祈るしかありません。復帰後にJRA重賞もしくは交流重賞を勝つ必要があります*4*5

②についてはゴーストくんはセン馬でしたね。不可能です。

つまり「ハルウララのような顕著な特筆事項」がゴーストくんの記事復活の本命です。アイドルホースオーディション2位を取るくらいの人気があるわけですから、ゴーストくんの人気の理由を分析した記事があれば、それは「有意な言及」として「特筆性」を推定させる根拠になるはずです*6

たとえばこの記事は非常に惜しいです。ゴーストくんの性格や競走馬としての評価、可愛らしさに触れられていますが、調教助手さんへのインタビューなので一次資料としての性格が強く「対象と無関係」に抵触します。また、ゴーストくんの特筆事項はファンからの人気であるところ、なぜ人気なのかというところについて分析がないのは厳しいところですね。

3 具体的に何をすればいいのか

ひたすらに資料を漁ってください。雑誌でも新聞でもWEBでもいいです。ゴーストくんはなぜ愛され、なぜアイドルホースオーディションで2位に輝いたのか、それがどれだけすごいことなのか、評価・分析している記事を探し出してください。さっきから何度も名前を出している『優駿』である必要はありません。競馬ブックでも競馬の天才でも東スポでもNumberでもいいのです。できれば複数あると存続の確実性が増します。

ウィキペディアVtuberの宇喜多・W・要出さんも「

人手が足りないから(情報が)見つかってないだけかもしれない」と言っています。本腰を入れて探してみたら案外簡単に見つかるのかもしれません。

そしてゴーストくんが愛される理由を評価・分析している出典さえあれば我々ウィキペディアンの削除判断は間違っていたことになるのです。ゴーストくんの記事復活に必要なのは出典、ただそれだけです。どうでしょう、我々の鼻を明かしてみる気にはなりませんか? ウィキペディアはゴーストくんファンの皆さまの愛のある情報提供をお待ちしております。

 

3.1 こんな記事ないかな?

一介のOP馬でありながら記事が存続しているメロディーレーンの例を挙げましょう。

たとえばJRAのこの記事。「牡馬でも苦しむようなレースで5着に健闘した頑張りがファンに支持されている」という趣旨の評価があるほか、その人気についても「重賞勝ち馬並みの知名度と人気を誇っている」と具体的に触れられています。

たとえばNumberのこの記事。「小さいのに強い」「ひたむきな走り」を人気の理由として挙げ、小さくても強いのはステゴ一族ゆえの血統的な影響であると評価しています。

たとえば東スポのこの記事。泥臭い努力を積み重ねたド根性が人気の理由だろうと述べています。

こういう出典が複数あるのがベストですね。ある記事を以って特筆性が認められるかどうかは人によって判断が分かれるところがあるので、こうやって複数叩きつけると認められる確率が上がります。

 

3.2 重賞未勝利馬の記事立項のヒント

この記事をお読みの方はおそらく、思い入れのある重賞未勝利を立項したい方、もしくは立項したら削除の憂き目にあった方だと思います。そんな方々へのヒントとして[[プロジェクト:競馬/立項されている重賞未勝利の競走馬]]をご紹介しましょう。

この記事はその名の通り重賞未勝利ながら記事が存続している競走馬の一覧です。もちろんこの中にも削除依頼に出せば特筆性なしとして削除されそうな記事は多数ありますが、その一方で皆さんの参考になる記事もあります。一例として[[スシトレイン]]の記事はよく書けているなと感じます。それもそのはずで、なんと2度の削除依頼を提出されながらも存続しています。個人的にポイントとなるのは評価節の充実ぶりで、なぜこの馬は重要なのか、どこが注目に値するのか、それらをキチッと示せていることが削除されるかどうかの分水嶺となっているように思います*7

なお、勘違いしてほしくないので念のため付け加えておきますが、「他にもこんなにたくさん重賞未勝利馬の記事があるんだから、私の記事が削除されるのはおかしい」という主張はWikipediaでは通用しません。詳しくは下のQ&Aを読んでください。ちなみに削除依頼の場でこういった主張をする方はたいてい予後が悪いです。

 

追記(2023-10-16)

続編として「[[ゴースト (競走馬)]]を添削してみた - けざわメモ」を書きました。ウィキペディア記事に何を書いてはいけないのか、この記事よりも具体的に説明しているのでもしよければ参考にしてみてください。

 

4 Q&A

本論が濁る疑問点についてはこちらで答えます。反響があれば適宜増えます。なかったら増えません。

Q.[[シゲルスダチ]]のように重賞未勝利でも存続している馬があるじゃないか。

A.車のスピード違反で捕まった人が「あいつも違反してた!」と言っても無罪にならないのと同じです。それは理由になりません([[WP:SPEED]])。日本語版Wikipediaには130万もの記事があり、それらをボランティアだけで管理しているのですからすべてに適切な管理が及ぶわけではないのです。ゴーストくんの記事がたまたま削除依頼を出す意欲のある人に見つかってしまったのは運が悪いですねとしか言いようがありません。

*1:まあけどWikipedia用語ってわかりづらいですよね。私も参加1年程度の新参なので気持ちはよくわかります。どこにガイドラインがあるか、そのガイドラインはどういう意味なのかものすっっっごいわかりにくいんですよ。学部時代の法律の勉強を思い出します。

*2:あるガイドラインを満たしたと思ったら別のガイドラインが出てくる。これがWikipediaの入りにくさの象徴だなと思うのですが、いかんせんどれも必要なルールなのでなかなか解決策も思い浮かばない。難しい問題ですね。私のような新参ではなんともし難いです。

*3:[[ダンジグ]]のような大種牡馬や、[[ウインドインハーヘア]]のような繁殖牝馬などです

*4:地方独自の重賞1勝程度では特筆性を満たさないと判断される例が多いです。もし地方重賞を勝てた場合はWebだけではなく競馬雑誌や新聞から十分な出典を揃えた記事を書くことを推奨します。でなければ多分また消されます。

*5:もしくは目黒記念勝利前のステイゴールドのように、重賞未勝利ながらも競走馬としての強さに「有意な言及」があれば足ります。勝てないのに重賞でやたら上位にくるから阿寒湖くんって親しまれてるよ!的な評価分析ですね。なかなかないでしょうが。

*6:なお、単にアイドルホースオーディション2位であることだけでは特筆性の証明になりません。なぜならそれがどれほどすごいことか不明だからです。単に投票というだけではTwitterのしょうもないアンケートの結果かもしれませんし、有馬記念ファン投票のような歴史と権威ある投票かもしれません。単なる投票を記事存続の根拠とするにはどのくらいすごい投票なのか示す必要があるのです。たとえば「ロシア競馬の年度代表馬」って言われてもどのくらいすごいのかわからないですよね? それと同じです。

*7:ちなみにこれだけ出典を備えてもなお削除寄りの意見はあります。詳細はWikipedia‐ノート:削除依頼/スシトレインを参照。なお、6万バイトを超える超長文ですが、2015年当時の競馬プロジェクトがどんな状況にあったかという背景もついでに理解できます。