けざわメモ

独自研究を書きます

Web OYA-bunkoが調べ物に便利すぎてヤバい

現在[[アーバンシー]]という競走馬*1Wikipediaを改稿している最中なのですが、この資料集めにはWeb OYA-bunkoというデータベースを活用しています。ご存じの方も多いと思いますが、このデータベース、とんでもなく便利です。なんと雑誌の記事検索が可能なんです。

というわけで今回はWeb OYA-bunkoがどれほど素晴らしいデータベースなのかという話をしていこうと思います。

なお、はじめに申し上げておきますが、Web OYA-bunkoはベタ褒めする一方で大宅壮一文庫に対しては批判的な記事になります。

 

この記事で言いたいこと

1. Web OYA-bunkoは最高のデータベース

2. 国会図書館に行って使うのが一番便利

 

 

Web OYA-bunkoとは?

大宅壮一文庫という雑誌専門図書館が提供しているデータベースで、上述の通り雑誌記事の見出し検索が可能です。

すなわち「雑誌には取り上げられるが、1冊の本になるほどではない物事」を調べるのにとても便利です。たとえばEugene OrmandyさんはWeb OYAを活用してフルーツサンドや名曲喫茶ウィキペディア記事を書いています*2

そして、「雑誌には取り上げられるが、1冊の本になるほどではない物事」の最たる例に競走馬があります。たとえばオグリキャップディープインパクトのように競馬ファン以外にも知られるような伝説的名馬であれば単独で本になりますが、ほとんどの「名馬」は単独では本になりません。ましてや現在執筆中のアーバンシーなんて海外の馬ですから日本語で単独書籍になるわけがありません。そういう時に大活躍するのがWeb OYA-bunkoというわけです。

 

NDLオンラインでは見つからない記事がこんなにたくさん

まずは試しにみんな大好き国会図書館が提供している国立国会図書館オンライン(NDL ONLINE)で「アーバンシー」と検索をかけてみましょう。

はい、競走馬アーバンシーについてのヒットは0件です。いくら歴史的名馬とはいえ欧州の、しかも現役時代よりも繁殖牝馬時代のほうが活躍したアーバンシーでは1冊の本は書けませんからね。そりゃこうなります。とはいえ欧州屈指の名馬ですから雑誌記事にはなっているはずです。

 

ではWeb OYA-bunkoで検索してみましょう。「アーバンシー」と検索をかけると、『優駿』2001年7月号と2009年6月号、『週刊ポスト』2019年10月25日号に記事があることがわかりました。すごい!国会図書館で使っているのでスクショはありません><)

アーバンシーの息子の記事も参照したいので「ガリレオ」「シーザスターズ」についても検索をかけたところ、『優駿』内に前者は8件、後者も8件の記事が存在することがわかりました*3*4

特にガリレオシーザスターズ共に引退から数年後に特集記事が書かれていることがわかったのがとても大きいです。現役時代の記事はせいぜい1~2年分の優駿を全部読めば見つかるので大した労力ではないのですが、現役引退後の特集を探すとなると20年分の優駿をすべて読まなければならないので……。もう競走馬記事はWeb OYAなしでは書けませんね。

 

実は見つからない記事も

ここまでで欲しい記事はだいぶ集まりましたが、実は検索にヒットしない記事もいくつかあります。

たとえば『優駿』2019年3月号および6月号に栗山求「GIホースが紡ぐ血」という連載が載っており、3月号はアーバンシー、6月号はガリレオを取り扱っていますが、これは検索に出てきませんでした。毎月3頭の名馬をピックアップして解説する連載なので、おそらく大宅文庫さんのデータベースには記事の小見出しまでは登録されていないのかなと思います。これらの記事は筆者・栗山求さんのブログに告知があったので見つけることができました。

それゆえ過信は禁物で、Web OYA以外の方法から色々探してみるのも大事です。あくまでも記事探しのひとつの手段として利用しましょう。

 

国会図書館との相性が良すぎ問題

こんな便利ツール、さぞお高いのでしょう?と思われた方、なんと国会図書館に行けば無料で使えちゃうんです。なんなら都立中央図書館でも使えます。というか自治体の図書館でもわりと使えるところがあります。もちろん本家本元の大宅壮一文庫に行っても使えます。

特に国会図書館との相性は抜群で、大宅文庫にある雑誌はたいてい国会図書館にもあるのでそのまま読めちゃいます。しかも国会図書館のコピー料金は大宅文庫の1/3以下*5。入館料も無料で、資料の取り寄せ冊数は無制限*6。しかも国立国会図書館デジタルコレクションは驚異の全文検索が可能で、館内からなら2000年までの一部の雑誌(主に週刊誌)も読める! うーん、クソ高い税金を払っている甲斐がありますね。これが日本国本気の民業圧迫です、NHKなんかかわいいものですよ。そろそろこの記事のタイトルを「国会図書館が調べ物に便利すぎてヤバイ」に変えたほうがいい気がしてきました*7

 

国会図書館の便利さは別格すぎるので置いておくとしても、大宅壮一文庫さんはいろいろと不便さが目立ちます。立地は京王線八幡山駅と、京王線ユーザーでもないと行きづらい場所にあります。国会図書館都立中央図書館都心部にあるので都内どこからでも比較的アクセスしやすいですね。また、都立中央図書館は日曜に開館することで国会図書館と差別化できていますが、大宅文庫国会図書館と同じで日曜休館なんですよね。ついでに都立中央図書館は新しめの書籍であればセルフコピーが可能で、料金は10円です。職員さんのコピーでも25円。安すぎる。もちろんWeb OYAも無料で利用できます*8

特に日曜日に開いていないのは個人的には致命的だと思っていて、私のようなサラリーマンが土曜日にどこかに調べ物をしに行くとなったら国会図書館一択なんですよ。雑誌だけでなく一般書籍も読めますし。日曜に開いていれば蔵書数的に競争相手が都立図書館くらいになるわけです。それなら、中央図書館は雑誌が弱い、かといって西国分寺多摩図書館まで行くのは面倒くさい。なら近場の大宅文庫で済ませよう、という考えになるかもしれません。

 

というわけで、Web OYA-bunkoは超便利ツールですが、京王線ユーザーを除けば大宅文庫以外の図書館から使ったほうが圧倒的に便利です。Web OYA-bunkoの契約費用は従量課金性のようなので、国会図書館都立中央図書館で使いまくることで還元していきましょう:D

*1:日本でたとえるならディープインパクトの母・[[ウインドインハーヘア]]くらいすごい馬です。息子があまりにも強すぎて、牝馬でありながら欧州競馬の血統表を自分色に染め上げてしまいました。

*2:雑誌専門図書館の大宅壮一文庫をウィキペディア記事の編集に活用する – Diff」も参照

*3:アーバンシーでヒットした2001年7月号と2009年6月号は除く。

*4:ガリレオは地動説のほうも引っかかってしまうのでスポーツ分野に絞って検索しています。

*5:大宅文庫のモノクロコピー料金は85円。国会図書館はモノクロA4B4なら25円。

*6:大宅壮一文庫は入館料500円で15冊まで、追加10冊ごとに100円。

*7:一応不便な点もあって、WebOYAは専門資料室のPCからじゃないと使えません。国会図書館に行ったことがある方ならご存じの通り本館・新館の図書カウンターの周りにたくさんPCがありますが、それらからは使えません。

*8:ただし都立中央図書館は雑誌の蔵書量がそんなでもないです。雑誌は西国分寺都立多摩図書館のほうにたくさんあります。

[[ゴースト (競走馬)]]をWikipediaに復帰させる方法 ~「特筆性」入門編~

Twitterの一部界隈を騒がせた[[ゴースト (競走馬)]]というWikipedia記事ですが、削除依頼を経て正式に削除されてしまいました。復帰依頼も出ていますが、復帰反対の意見のほうが優勢な状況です。ファンの皆さまからすれば残念なことだと思います。私も[[カレンブーケドール]]が好きなのでもし削除されようものなら悲しいです :(

ですが諦める必要はありません。ゴーストくんの削除理由は「特筆性」がないことです。すなわち、「特筆性」を備えていることさえ示せば復帰が可能なのです。

ということで本稿ではゴーストくんの記事復帰に向けたヒントを提示しつつ、皆さまにWikipediaにおける「特筆性」の理解を深めていただけたらと思っています。

 

1 特筆性とは

ウィキペディアには「こういう記事は作っていいよ」という基準があります。そう、ウィキペディアンの間で「特筆性」と呼ばれているものです。正式には[[Wikipedia:独立記事作成の目安]]という名称です。

無尽蔵にどんな情報でも受け入れてしまうと、低質な記事や信頼できない記事、低価値なリンク集のようなものが濫造されてしまいますから、どんな記事なら作成が許されるか、どこかでひとつ線引きをしなければならないのは理解いただけると思います。たとえば1年もしないうちに潰れるような飲食店やベンチャー企業、高校の文化祭で結成されたバンドなんかを立項できてしまったらキリがないですよね? 善意の寄付によって賄われている貴重な運営費をそんなものために浪費できるでしょうか? そういうことです。

そしてこの「特筆性」という呼び名は誤解を招きやすいものでして、「人気」や「有名さ」といった概念とは一切関係がありません。ゴーストくんの件でも「アイドルホースオーディション2位に特筆性がないわけないだろ!」といった趣旨の意見が散見されましたが、これも特筆性をそれらの意味に誤解したがゆえの反応だと思われます*1

孫氏も「敵を知り、己を知れば、百戦してあやうからず」と言っています。ということで、まずはWikipediaにおける「特筆性」の中身を見ていきましょう。

 

Wikipediaにおける「特筆性」は「対象と無関係信頼できる情報源から有意な言及があった場合、その話題はウィキペディアの独立記事として作成、収録するだけの価値があると推定されます([[Wikipedia:独立記事作成の目安]]より引用) ということを意味します。

はい、意味がわかりませんね。そう思われた方も多いと思います。私もそう思います。ということで、太線部分の具体的な意味をそれぞれ見ていきましょう。

 

1.1「対象と無関係」

これはわかりやすいですね。そのまま対象とは無関係な言及である必要があります。つまりゴーストくんで言えば橋口調教師によるコラムだったりブログだったりは特筆性の証明にはならないということです。対象と関係のある言及を許すと、たとえば無名企業の宣伝的なWikipedia立項を許してしまうことになってしまいます。

1.2「信頼できる情報源」

これもそんなに難しい話ではないのですが、ガイドラインでは長々と書いてあって頭が痛くなります。詳しく知りたい方は[[Wikipedia:信頼できる情報源]]を読んでください。

ものすごく簡単に言えば「専門家が公表した二次資料」です。二次資料とはその物の関係者による資料(一次資料)を要約・分析したもので、上記の1.1に当たらない専門家の資料ならこれに当てはまることが多いです。つまり、誰なのかもよくわからない素人のブログや匿名掲示板の書き込みはNGということです。これも常識で考えれば納得いただけると思います。

ちなみに競馬関係で言えば、優駿をはじめとした競馬雑誌やスポーツ新聞が「信頼できる情報源」にあたります。とくに優駿Wikipediaの競馬分野においては良質な資料として高い信頼を得ており、優駿内で有意な言及があるか否かは競走馬の特筆性における重要な判断材料になっているように感じます。

1.3「有意な言及」

ゴーストくんの場合これを満たせるかどうかが記事復帰における鬼門です。ある記事においてその事柄が主題であれば「有意な言及」であるとされます。つまり、ゴーストくんが主役の記事があるかどうかが問われているのです。なおnetkeibaやJBISサーチのようなデータベースは「有意な言及」たり得ません。

じゃあゴーストくんの障害移籍や中央登録抹消を報じた報道があるじゃん!と思った方、鋭いです。実はそれは別のルールに抵触するため特筆性を満たす理由になりません*2

1.31「ウィキペディアは新聞ではありません」

Wikipediaには[[Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか#ウィキペディアは新聞ではありません]]というルールがあります。簡単に言えば、日々繰り返される報道はWikipediaにおける特筆性の証明にはならないということです。たとえばニュースがあるからってよくある自動車接触事故とか一般民家の火事をいちいち立項されては困るわけです。

競馬分野においては次走報や移籍、登録抹消の報道は一介の条件馬でも報じられるような性質のものです。すなわち、障害移籍や中央登録抹消を報じた報道は「有意な言及」たり得ません。単にゴーストくんに関する事実を述べただけの記事ではなく、筆者によるゴーストくんへの分析(競走馬としての実力、人気etc……)があってはじめて「有意な言及」たり得ます

1.4「推定される」

今回はあまり関係ありません。1.1から1.3をすべて満たしていても特筆性が認められない場合がありますという一般論の話です。

1.5「Wikipedia:競走馬の特筆性判断の基準と独立記事作成についてのガイドライン

Twitterや某サイトでも[[Wikipedia:競走馬の特筆性判断の基準と独立記事作成についてのガイドライン]]が触れられていましたね。ざっくりまとめれば、①重賞勝ち馬②顕著な繁殖実績のある馬*3③[[ハルウララ]]のような顕著な特筆事項のある馬、以外はだいたい削除されるよね、という競馬分野における経験則のまとめです。将来的にはルールにしたいよねと言いつつも、現時点では単なる草案であり一切の拘束力を持ちませんが、大抵の競走馬記事は①~③のいずれかを満たします。つまり競走馬記事を作成する場合、当ガイドラインに当てはまるか否かが非常に重要になります。

 

2 ゴーストくんの場合

ここまで読んでくださった皆さま、Wikipediaの長ったらしい規則の説明にお付き合いいただきまして誠にありがとうございます。こんなの読まされたら辟易としますよね

つまりゴーストくんの記事を存続させたいのであれば、「ゴーストくんに無関係な信頼できる情報源による有意な言及」があればいいですし、①重賞勝ち馬、②顕著な繁殖実績のある馬、③ハルウララのような顕著な特筆事項のある馬のいずれかに該当すればいいわけです。

 

まず①については祈るしかありません。復帰後にJRA重賞もしくは交流重賞を勝つ必要があります*4*5

②についてはゴーストくんはセン馬でしたね。不可能です。

つまり「ハルウララのような顕著な特筆事項」がゴーストくんの記事復活の本命です。アイドルホースオーディション2位を取るくらいの人気があるわけですから、ゴーストくんの人気の理由を分析した記事があれば、それは「有意な言及」として「特筆性」を推定させる根拠になるはずです*6

たとえばこの記事は非常に惜しいです。ゴーストくんの性格や競走馬としての評価、可愛らしさに触れられていますが、調教助手さんへのインタビューなので一次資料としての性格が強く「対象と無関係」に抵触します。また、ゴーストくんの特筆事項はファンからの人気であるところ、なぜ人気なのかというところについて分析がないのは厳しいところですね。

3 具体的に何をすればいいのか

ひたすらに資料を漁ってください。雑誌でも新聞でもWEBでもいいです。ゴーストくんはなぜ愛され、なぜアイドルホースオーディションで2位に輝いたのか、それがどれだけすごいことなのか、評価・分析している記事を探し出してください。さっきから何度も名前を出している『優駿』である必要はありません。競馬ブックでも競馬の天才でも東スポでもNumberでもいいのです。できれば複数あると存続の確実性が増します。

ウィキペディアVtuberの宇喜多・W・要出さんも「

人手が足りないから(情報が)見つかってないだけかもしれない」と言っています。本腰を入れて探してみたら案外簡単に見つかるのかもしれません。

そしてゴーストくんが愛される理由を評価・分析している出典さえあれば我々ウィキペディアンの削除判断は間違っていたことになるのです。ゴーストくんの記事復活に必要なのは出典、ただそれだけです。どうでしょう、我々の鼻を明かしてみる気にはなりませんか? ウィキペディアはゴーストくんファンの皆さまの愛のある情報提供をお待ちしております。

 

3.1 こんな記事ないかな?

一介のOP馬でありながら記事が存続しているメロディーレーンの例を挙げましょう。

たとえばJRAのこの記事。「牡馬でも苦しむようなレースで5着に健闘した頑張りがファンに支持されている」という趣旨の評価があるほか、その人気についても「重賞勝ち馬並みの知名度と人気を誇っている」と具体的に触れられています。

たとえばNumberのこの記事。「小さいのに強い」「ひたむきな走り」を人気の理由として挙げ、小さくても強いのはステゴ一族ゆえの血統的な影響であると評価しています。

たとえば東スポのこの記事。泥臭い努力を積み重ねたド根性が人気の理由だろうと述べています。

こういう出典が複数あるのがベストですね。ある記事を以って特筆性が認められるかどうかは人によって判断が分かれるところがあるので、こうやって複数叩きつけると認められる確率が上がります。

 

3.2 重賞未勝利馬の記事立項のヒント

この記事をお読みの方はおそらく、思い入れのある重賞未勝利を立項したい方、もしくは立項したら削除の憂き目にあった方だと思います。そんな方々へのヒントとして[[プロジェクト:競馬/立項されている重賞未勝利の競走馬]]をご紹介しましょう。

この記事はその名の通り重賞未勝利ながら記事が存続している競走馬の一覧です。もちろんこの中にも削除依頼に出せば特筆性なしとして削除されそうな記事は多数ありますが、その一方で皆さんの参考になる記事もあります。一例として[[スシトレイン]]の記事はよく書けているなと感じます。それもそのはずで、なんと2度の削除依頼を提出されながらも存続しています。個人的にポイントとなるのは評価節の充実ぶりで、なぜこの馬は重要なのか、どこが注目に値するのか、それらをキチッと示せていることが削除されるかどうかの分水嶺となっているように思います*7

なお、勘違いしてほしくないので念のため付け加えておきますが、「他にもこんなにたくさん重賞未勝利馬の記事があるんだから、私の記事が削除されるのはおかしい」という主張はWikipediaでは通用しません。詳しくは下のQ&Aを読んでください。ちなみに削除依頼の場でこういった主張をする方はたいてい予後が悪いです。

 

追記(2023-10-16)

続編として「[[ゴースト (競走馬)]]を添削してみた - けざわメモ」を書きました。ウィキペディア記事に何を書いてはいけないのか、この記事よりも具体的に説明しているのでもしよければ参考にしてみてください。

 

4 Q&A

本論が濁る疑問点についてはこちらで答えます。反響があれば適宜増えます。なかったら増えません。

Q.[[シゲルスダチ]]のように重賞未勝利でも存続している馬があるじゃないか。

A.車のスピード違反で捕まった人が「あいつも違反してた!」と言っても無罪にならないのと同じです。それは理由になりません([[WP:SPEED]])。日本語版Wikipediaには130万もの記事があり、それらをボランティアだけで管理しているのですからすべてに適切な管理が及ぶわけではないのです。ゴーストくんの記事がたまたま削除依頼を出す意欲のある人に見つかってしまったのは運が悪いですねとしか言いようがありません。

*1:まあけどWikipedia用語ってわかりづらいですよね。私も参加1年程度の新参なので気持ちはよくわかります。どこにガイドラインがあるか、そのガイドラインはどういう意味なのかものすっっっごいわかりにくいんですよ。学部時代の法律の勉強を思い出します。

*2:あるガイドラインを満たしたと思ったら別のガイドラインが出てくる。これがWikipediaの入りにくさの象徴だなと思うのですが、いかんせんどれも必要なルールなのでなかなか解決策も思い浮かばない。難しい問題ですね。私のような新参ではなんともし難いです。

*3:[[ダンジグ]]のような大種牡馬や、[[ウインドインハーヘア]]のような繁殖牝馬などです

*4:地方独自の重賞1勝程度では特筆性を満たさないと判断される例が多いです。もし地方重賞を勝てた場合はWebだけではなく競馬雑誌や新聞から十分な出典を揃えた記事を書くことを推奨します。でなければ多分また消されます。

*5:もしくは目黒記念勝利前のステイゴールドのように、重賞未勝利ながらも競走馬としての強さに「有意な言及」があれば足ります。勝てないのに重賞でやたら上位にくるから阿寒湖くんって親しまれてるよ!的な評価分析ですね。なかなかないでしょうが。

*6:なお、単にアイドルホースオーディション2位であることだけでは特筆性の証明になりません。なぜならそれがどれほどすごいことか不明だからです。単に投票というだけではTwitterのしょうもないアンケートの結果かもしれませんし、有馬記念ファン投票のような歴史と権威ある投票かもしれません。単なる投票を記事存続の根拠とするにはどのくらいすごい投票なのか示す必要があるのです。たとえば「ロシア競馬の年度代表馬」って言われてもどのくらいすごいのかわからないですよね? それと同じです。

*7:ちなみにこれだけ出典を備えてもなお削除寄りの意見はあります。詳細はWikipedia‐ノート:削除依頼/スシトレインを参照。なお、6万バイトを超える超長文ですが、2015年当時の競馬プロジェクトがどんな状況にあったかという背景もついでに理解できます。

デマはこうして生まれる [[サントリーオールド]]から学ぶWikipedia「情報の合成」

オールドショック」という言葉をご存知でしょうか?

サントリーオールド」というジャパニーズウイスキーにまつわる事件なのですが、いくぶん古い話ですので、知らない皆様のためにウイスキー情報サイトの解説を引用してみましょう。

 

その昔には、「オールドショック」と呼ばれる事件があり、ウイスキーとは呼べないものを作っていた過去もあります。事件の発端となったのが1981年。日本消費者連盟サントリーオールドの成分を調査したところ、オールドは熟成されていない少量の原酒に穀物アルコールを加えて、カラメルやリキュールを使って味や色を調整していただけのものだった可能性があると判断されたのです。

Peaty「日本のウイスキーサントリーオールド(だるま)」の紹介、事件とは?」より引用(https://peaty.club/blog/1238

好調な売り上げを叩き出したものの、翌年1981年に消費者連盟がサントリーオールドの成分調査を実行「オールドショック」と言われる事案が発生。モルト原酒27.6% グレンウイスキー45.1%  汲水26.1% 甘味果実酒0.8% リキュール0.4% カラメル0.6%といった成分が検出。消費者連盟の見解からは熟成されていない少量の原酒に穀物アルコールを加えて、カラメルやリキュールを使って味や色を調整していただけのものだった可能性があると指摘、判断されたのです。

Japanese Whisky Dictionary「第四章.鳥井信治郎その2(後編)|日本のウイスキーの歴史」より引用(https://jpwhisky.net/2023/05/07/whiskeyhistory4-2-2-2/

これを読むと、オールドショックとは「日本消費者連盟がオールドの構成成分について問題提起したこと」という事件のようですね。

 

さて、結論から申し上げますと、上記の説明は真っ赤な嘘です。オールドショックという言葉に日本消費者連盟はこれっぽっちも関係ありません。本来の「オールドショック」とは「ある時期を境にオールドの売上が大きく下がったこと」を指す言葉です。

しかもこのデマ、生まれはおそらくWikipediaです。個人的になかなか興味深い事案なので、「オールドショック」という言葉の意味がいかにして捻じ曲がっていったかを紐解いていこうと思います。

1 オールドショックとは

「オールドショック」について語る前に、まずは信頼できる情報源にあたって正しい意味を知る必要がありますね。というわけでいくつかの書籍を読んでみましょう。

 

ウイスキー文化研究所代表の土屋守は『ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー』でオールドショックについて述べており、ざっくり要約すると下記のような内容です。

1980年を境にオールドの売り上げが落ちたことを「オールドショック」という。その原因は価格の値上がり、白州の酒質が軽すぎたこと、焼酎ブームの3つである。

また、ジャーナリストの秋場良宣が『サントリー 知られざる研究開発力―「宣伝力」の裏に秘められた強さの源泉』で述べたことをざっくり要約すると次のような内容になります。

オールドの出荷本数はピーク時にくらべて四分の一にまで減少した。これを「オールドショック」という。その原因は、社会が豊かになったことでオールドの「憧れの酒」というブランド価値が薄れたこと、増税による値上がり、焼酎ブームの3つである。

 

それぞれ一つ異なる要因を挙げていますが、オールドの売上減少を「オールドショック」と呼ぶことと増税と焼酎ブームがその原因であることは共通していますね。


2 ウィキペディアの記述の移り変わり

「オールドショック」の本来の意味を知っていただけたと思いますので、次はWikipediaの記述がどうなっているか見ていきましょう。

Wikipediaは過去の編集履歴をすべて遡って確認することができます*1。誰がいつどんな編集をしたか丸わかりというわけです。便利ですね。

 

それでは日本語版Wikipediaの[[サントリーオールド]]の履歴を見てみましょう。便宜上2015-04-18T16:47:29(UTC)の版をA版、2015-05-02T20:39:46(UTC)の版をB版と呼ぶことにします。

出典:https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89&action=history より筆者一部加工

 

まずは2015-04-18T16:47:29(UTC)のA版を見てみましょう。


出典:https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89&oldid=55162064

出典のない信頼できない記述ですねというのはさておき*2、要約すると「焼酎やワインの台頭、輸入ウイスキーの価格低下によってオールドの売り上げが落ちた。これがオールドショックである。」という趣旨であり、2015年4月18日時点ではWikipediaの記述は間違っていないことがわかります。

続いて、その次の版である2015-05-02T20:39:46(UTC)のB版を見てみましょう。なお、赤線はA版から元々存在した文章で、赤線以外がB版で新規加筆された文章です。

 

出典:https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89&oldid=55413515 より筆者一部加工。

 

A版の記述の間にサントリーオールドの混ぜもの疑惑に関する文章が挿入されていますね。出典は示されていませんが、この記述は日本消費者連盟編著『ほんものの酒を! 』(三一書房)がネタ元で間違いありません。この本はサントリーの内部資料をもとに、オールドにカラメルやリキュール、果実酒がブレンドされていると告発した書籍です。内容にはややツッコミどころのある書籍なのですが、その真偽についてはここでは踏み込みません。重要なのはこの書籍に「オールドショック」という単語は一度たりとも登場しないということです。オールドの混ぜもの疑惑とオールドショックという単語は一切関係ないのです。

しかし、それを踏まえてB版を読んでみるとおかしなことに気が付きます。

A版に記述の真ん中に『ほんものの酒を! 』を内容を挿入してしまったためか、「焼酎やワインの台頭、混ぜもの疑惑、輸入ウイスキーの価格低下によってオールドの売り上げが落ちた。これがオールドショックである。」という趣旨に読める文章へ改変されてしまっているのです。混ぜものとオールドショックに関係はないにもかかわらずです。混ぜもの疑惑の文量が多いこともあって、混ぜもの疑惑=オールドショックと勘違いする人が出てもおかしくないですよね。

これがオールドショックと混ぜもの疑惑が結びついてしまった瞬間、すなわち「オールドショック」=「日本消費者連盟がオールドの構成成分について問題提起したこと」であるとするデマが生まれてしまった瞬間ではないかと私は推測しています。「オールドショック」について言及した個人ブログなどいくつか読みましたが、2015年5月以前の記事で混ぜもの疑惑とオールドショックを結びつけている記事は見たことがありません。

しかも驚くべきことに、このB版の内容は2023-06-22T08:32:12(UTC)に修正されるまで8年以上にわたってWikipediaに残り続けました。その結果、冒頭のようなオールドショックの誤った解説を載せるサイトが現れてしまったのです。

 

なお現在では混ぜもの疑惑をオールドショックの項目から離すことで、誤解されないような形にしています。履歴を見てもらえればわかりますがやったのは私です。

出典:https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89&oldid=95716906 より筆者一部加工。

 

3 「情報の合成」

実はWikipediaにはこういった出来事を防ぐための規則があります。ずばり[[WP:SYN]]こと「情報の合成」です。

詳しく知りたい方はリンク先を読んでいただくとして、ざっくり言うと「ウィキペディアの執筆者は勝手に三段論法だとか推論だとかをやってはいけない」というルールです*3。具体的には下記のような場合に問題になります。

コラーゲンは肌の主成分でハリを保つ役割がある(出典A)。

鶏肉はコラーゲンを多量に含む(出典B)。

したがって、鶏肉を食べると肌のハリが保たれる。

この例では「鶏肉はコラーゲンを多量に含むため、食べるとコラーゲンの働きで肌のハリが保たれる。」という論立てをやってくれている出典がなければ最後の文章を記述することはできません。

 

今回のオールドの記事で起こったこともこれと同じです。もともとは「焼酎やワインが台頭してきた。輸入ウイスキーの価格が低下した。それゆえオールドの売り上げが落ちた」という文章だったところに、『ほんものの酒を!』の混ぜもの疑惑の話が合成されてしまっています。混ぜもの疑惑とオールドの売上低下の関連を示す出典がないにもかかわらず。

 

この情報の合成、Wikipediaの編集を始めて日の浅い方々が「出典付けたからいいだろ!」といってやってしまいがちな印象があります[要出典]。この記事を読んだ非ウィキペディアンの方が今後もしWikipediaを編集されるときには、この記事のことを思い出してガイドラインに則った編集をしてくださると嬉しいですね:D

 

4 けっきょく何が言いたいのか

「オールドショック」という単語とオールドの混ぜもの疑惑を結びつけて書いているサイトは、Wikipediaの無出典記述を無批判に信頼してしまうような低質なサイトです。もちろん何らかの資料や考察をもとにそのふたつを結びつけているなら別ですが、当然の事実としてそのふたつを結びつけているサイトはほぼ間違いなくWikipediaが元ネタだと思われます。他にもどこに誤情報が紛れているかわからないので参考にするのはやめましょう。

 

2023/07/25追記

「オールドショック」の用例について国立国会図書館デジタルコレクションで調べてみました。ご存じの方も多いと思いますが、多数の文献の全文検索が可能な便利ツールですね。一度使ってみればスタンディングオベーション不可避の素晴らしいサイトなので皆さまぜひ使ってみてください。

雑誌に限って言えば2000年12月までのものが国会図書館内限定閲覧ではあるものの多数収録されています。

 

まずそもそも「オールドショック」という単語がサントリーオールドに関する文脈ではヒットしません。

また、週刊新潮1985年2月21日号*4では上述の『ほんものの酒を!』(1982年)の混ぜもの疑惑を引用して痛烈な批判を展開していますが、やはり「オールドショック」という単語は出てきません。この記事はオールド売上低下の理由として増税と焼酎ブームを挙げつつも、実は混ぜもの疑惑や熟成期間の短さはじめとした質の低さが原因なんじゃない?と勘ぐるような内容です。上記の新潮と同時期に刊行された『サントリーの落日』(1985年)でもやはり「オールドショック」という単語は出てきません。

 

情報を漁れるのは2000年までの一部の雑誌限定ということもあるので断定的なことは言えませんが、やはり「オールドショック」という言葉と混ぜもの疑惑は無関係で、売上低下と疑惑の関連性についてもせいぜい週刊誌に勘ぐられるくらいの関連性であったのだろうと思います。

「オールドショック」って言葉はいつ頃使われ始めたんでしょうね……? 謎が残りました。

 

追記:今回のオールドショックのような事例が他にもあるようで、それをまとめた動画があるので貼っておきます:D

www.youtube.com

*1:著作権侵害などを理由に不可視化されている版が稀にあったりしますが。

*2:Wikipediaではこれを「独自研究」なんて呼んだりします。

*3:理解・要約が間違っていたら教えてください><

*4:この1985年の時点でサントリーオールドの売上は最盛期の30%減であるとしている書籍もあります。